きのう見つけた1分ちょっとの記録映像の話です。単発。オチはありません。
まず、ソ連には友愛キスという儀礼がありまして
社会主義国の偉い人同士が、公式行事で抱き合って頬にキスするやつです。ハグの濃いバージョンだと思ってください。結束を示す外交儀礼なので、いやらしい意味は一切ありません。ありませんが、まあ、絵面がすごい。
これを世界一有名にしたのがレオニード・ブレジネフ書記長。
もともと背中バンバン叩くタイプのスキンシップ大好き人間だったらしく。在任中ずっとやり続けた結果、ベルリンの壁に絵として描かれるところまで行きました。《神よ、この死に至る愛の中で我を生き延びさせ給え》——通称「兄弟のキス」です。
タイトルが強すぎる。死に至る愛。 東ドイツのホーネッカー議長とのキス写真(1979年)が元ネタで、壁崩壊後の1990年に描かれたものだそうです。
で↓がきのうなんとなくネサフしてて見つけたブレジネフキッスの映像です。
Дружеские поцелуи. Вручение Леониду...(ГОСТЕЛЕРАДИОФОНД)
勲章授与式典。居並ぶ男たちを、ブレジネフがアイドルの握手会みたいな勢いで順番にブチュブチュしていきます。

すごい。列ができてる。
* * *
本題はブレジネフ👄ではない
しれっとカメラに映り込んで手前で飲み物を選んでる人がいるんですよ。

左の、黒縁メガネの白髪の人。
推しのM.A.スースロフです。(前回の記事「なぜ検閲マンを推せるのか」参照)
背後で総書記が男性と熱い抱擁を交わしている、その手前で。ボーイが差し出した盆を、指を口元にやって吟味している。
(´-`).。oO(同士ブレジネフ、相変わらず体張ってるなぁ)
(´-`).。oO(さてなに飲もうかなぁ)
* * *
観察するとけっこう面白い
この数秒、よく見ると情報量がすごいんです。
- 一杯目に手を出さない。 目の前に来た盆から、すぐには取らない
- 指を口元にやって、一拍考える
- そのうえで、周りと同じものではなく、オレンジ割りらしきものを選んでいる

確保。
(´-`).。oO(酔っ払いたくないんだよなぁ)
そしてこの人が飲み物を選んでいる間に、ブレジネフは2〜3人捌いています。
ウケる😂
* * *
緊張してる人は、選ばない
これ、けっこう本質だなと思っていて。
式典で緊張している人間は、飲み物を選びません。 列の流れに乗って、みんなと同じものを受け取る。それが一番安全だから。
選ぶという行為そのものが、余裕の証拠なんですよね。

* * *
追記:同じ式典の、本編のほうも残っていた
この式典、授与の本編の映像もありました。
Вручение Л.И. Брежневу ордена «Победа»
1978年2月20日。ブレジネフが「勝利」勲章を受けた日です。ソ連軍創設60周年(2月23日)に合わせた式典ですね。
で、勲章をブレジネフの胸に付けているのが、さっきドリンクを選んでいたあの人です。
読み上げの中身がすごい
YouTubeの自動字幕をコピーして翻訳にかけたら、スースロフの読み上げがこうでした。
ソ連最高会議幹部会の委任を果たし、ソ連共産党中央委員会書記長、ソ連最高会議幹部会議長、ソ連国防会議議長、ソビエト連邦元帥、我らが同志にして友であるレオニード・イリイチ・ブレジネフに、最高軍事勲章「勝利」を授与する
まず肩書きが渋滞している。
そのうえで注目してほしいのが、受章者の肩書きに「ソ連最高会議幹部会議長」が入っていることです。
これ、勲章を授ける側のトップなんですよ。
つまりこの日、勲章を出す人ともらう人が、同一人物なんです。さすがに自分で自分の胸に付けるわけにはいかない。だから幹部会が誰かに「委任」する必要がある。冒頭の「委任を果たし」はそういう意味です。
その役を振られたのが、スースロフでした。
(´-`).。oO(……えーっ?同志ブレジネフに受勲する役、私? うっわめんd…)
茶番かわいい。😂
* * *
賛辞の中身も、なかなか
このあとスースロフは、長い賛辞を読み上げます。マールイ・ゼムリャ、ウクライナ、カフカス、ルーマニアとハンガリーの解放……と戦歴が並ぶんですが、その中にこういう一節があります。
あなたは軍の政治将校として、大祖国戦争の前線の道を歩まれた
政治将校。つまり、部隊を指揮していたわけではない。
「勝利」勲章はもともと、戦線を指揮して戦略的な状況を変えた司令官に贈られるものでした。ジューコフとかワシレフスキーとか、そのクラスです。賛辞の中で自分から「政治将校でした」と言ってしまっているあたり、無理があることは全員わかっていたんじゃないかと思います。
そしてこの授与、1989年9月に取り消されました。 規定に反する、という理由で、ゴルバチョフが署名しています。ブレジネフの死から7年後です。
もらった本人はもういない。渡したスースロフも1982年に死んでいる。取り消しの決定だけが残った。
シュール😂
* * *
おまけ
勲章を付け終わったあと、ブレジネフがスースロフを抱き寄せます。例のやつです。
頬に、往復。
——ここでスースロフが、サッとブレジネフの右手を取って、ガッシリ握手に持ち込みます。
鮮やかに三回目を封じてません?
それが、握手という別の儀礼に切り替えられて終わっている。「同志、受勲おめでとうございます」の顔で。
しかもこのあとのブレジネフ、なんとなくジト目なんです。晴れの日に、兄弟キッスの三回目を封じられた不発感。
……気のせいでしょうか。気のせいかもしれません。
( ▔•ω•▔ ) <同志スースロフ、逃げたな…
(´-`).。oO(飲酒も兄弟キッスも、喉痛くなるから勘弁。)
スースロフは若い頃に結核をやっていて、体調にはずっと神経質だった人です(前回参照)。
ちなみにこの動画、ロシア語のコメント欄に「伝説の同志スースロフ。彼は誰ともキスをしたことがない唯一の人物だ」と書いている人がいました。真偽は確かめようがないのでただの与太話として受け取っておきますが、そういう与太話が立つ人物であるという点のほうが、私には面白いです。
ちなみにブレジネフのキッス👄を躱した他国の指導者、というのも何人かいるので、それはまたいつか書きます👋
映像出典:ГОСТЕЛЕРАДИОФОНД(ソビエト国立テレビ・ラジオ基金)「Дружеские поцелуи. Вручение Леониду…」および同式典の授与記録映像より。画面写真は当該映像からの引用です。ロシア語の読み上げはYouTubeの自動字幕を訳したものなので、細部の言い回しは正確でない可能性があります。